千葉県弁護士会
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会長声明

「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」についての会長談話

千葉県弁護士会会長は、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」に関し、以下のとおり談話を発表する。

自民党及び公明党は、2016年4月8日、参議院に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」(以下「本法案」という。)を提出した。現在参議院法務委員会では2015年に民主党、社民党、無所属の議員らから提出された「人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律案」とともに、いわゆるヘイトスピーチに関する審議がなされている。
当会は、本法案において「不当な差別的言動」を「適法に居住する者」(以下、「適法居住要件」という。)に対する言動に限定していることに反対し、適法居住要件の削除を強く求めるものである。

近時、日本国内では在日外国人や外国に繋がる人々等に対するヘイトスピーチが人としての尊厳を傷つけ、差別意識を生じさせ日常社会で軋轢を生じさせるなど社会問題化している。
当会は、ヘイトスピーチは決して許されないものであるとの認識に立ち、国会においてヘイトスピーチに関する議論がなされていること自体は歓迎するものである。

しかし、本法案の「適法居住要件」は必要がないばかりか、有害であると言わざるを得ない。
そもそも、ヘイトスピーチは、相手の人格を否定し、人としての尊厳を傷つけるものである。相手が適法に居住しているか否かは全く関係がない。誰に対してヘイトスピーチを行うかで本法案にいう「不当な差別的言動」に該当するか否かが決せられるということに合理性は全くない。適法居住要件があることで、在留資格を有しない者や驚愕的に低い難民認定率のなか難民申請をしている者に対するヘイトスピーチが許容されているのではないかという誤った情報発信となり、かえってこのような人々への差別を助長するおそれがある。このことは本法案の「不当な差別的言動の解消」(第1条)の目的を大きく阻害するものといえる。
また、我が国も締約国となっている人種差別撤廃条約に基づいて設置されている人種差別撤廃委員会は、その一般的勧告30において「人種差別に対する立法上の保障が、出入国管理法令上の地位にかかわりなく市民でない者に適用されることを確保すること、及び、立法の実施が市民でない者に差別的効果を持つことがないよう確保すること」を要求している。その保障の対象に在留資格がない者を含んでいることは明白である。

「差別的言動の内容は同じなのに在留資格の有無で『不当な差別的言動』に該当するか否かが変わってしまう、これはおかしいだろう」
「非正規の滞在者には何を言っても『不当な差別的言動』にならないのか?」
端的に指摘すると、この適法居住要件の問題点はここにある。

以上の理由により、本法案の「適法居住要件」の削除を強く求めるものである。

2016年5月2日

千葉県弁護士会
会 長  山村 清治